大震災当日、現場へと駆けつけた担当所長の小池。その時の対応がきっかけで信頼関係が深まり新規受注へ。
工藤建設の生え抜きで、卓越した技術と知識をもつ現場監督の小池が手がける医療ビルが、駅前の新しいランドスケープを生み出した。
未曾有の大地震「東日本大震災」。余震が続く緊迫した状況のなか、工藤建設の各現場では緊急の安全確認作業が行われていた。
そうした状況下で、当時木造の解体工事現場にいた工事課の小池宣夫の携帯電話が鳴る。
「大変だ、建物内が停電になった!」。
発信元は工藤建設が工事を行った医療ビルのオーナー様(後述)。安全確認が取れたその場を仲間に委ねて小池は医療ビルへ急行する。すぐに携帯電話も通じなくなった。地域に根差した建設会社として建設から建物管理まで請負う工藤建設にとって、ビルを建てれば終わりではない。
引渡し後の建物の安全を守ることもまた責務である。到着後、小池は停電状態のなか、懐中電灯を片手に建物内を点検。
「分電盤を点検しましたが異常はありませんでした。どうぞご安心ください。電気が復旧すれば大丈夫です」
と直接オーナー様に現状を報告した。
「そうか、よかった。君の顔を見たら安心したよ」。
さて、時計の針を東日本大震災からさらに6年前の2005年に戻す。
件(くだん)の医療ビルは、工藤建設の中核的な営業圏である東急田園都市線沿線にある駅前立地。
もとは大手銀行の支店があった場所である。川越いわく、
「地域のシンボルになるようなビルを建てたいというオーナー様の強いご要望が示されたコンペでした。我々はその想いに応えたいと考え、コンペに参加しました」。
最終的には異例の現場監督面接まで行われた案件だ。
「この現場工事で気を付けることは?」というオーナー様からの質問に「隣が幼稚園なので子どもたちの安全・安心が最も大切と考えています」と即答した現場監督(工事課)の小池宣夫。
小池の豊富な経験に基づく的確な回答が、オーナー様の琴線に触れた。
受注に至った勝因の一つと言ってよいだろう。
受注後、手がけたビルの概要は、地上5階建てで、1・2階はオーナー様の整形外科医院、他の階は医療テナントとして活用するプロジェクト。
工藤建設は施工から内装、建物管理までを一貫して担当した。
限られた工期でまさしく地域のシンボルに相応しい医療ビルを完成させた。
上述の医療ビル工事完成から7年後、川越のもとに再びオーナー様から電話が入った。川越はその時をこう述懐する。
「物件と隣接する用地に新しい医療ビルを建てたいというお話でした。今回はコンペではなく、我々への特命でした。工藤建設に一切任せるから、いいものを作ってくれと。安心して頼っていただいているような柔らかいお声でした」。
設計段階からすべての工程を工藤建設に一任するという特命案件を獲得した要因は、冒頭紹介した震災時の小池の対応と、小池が施工を監督した最初のビル建設が評価された結果といえよう。
日頃から社員一人ひとりが徹底している「常にお客様を第一に考える姿勢」、さらに竣工後もお客様を大切にし続ける地域密着の姿勢によって揺るぎない信頼を獲得し、受注へとつながったのである。
建設プロセスの様子
着工後、基礎工事から躯体工事(コンクリートの打設)、外装、仕上げまで、すべての工程を小池が管理を行った
新しい医療ビルプロジェクトは1棟目建設のビルから道を1本挟んだ向かいの立地で、さらに規模の大きい地上6階建て。
オーナー様の今後の事業展開の拠点となる建物である。
期待に応えるためにも川越、小池をはじめ設計や現場の職人までメンバー全員が一丸となって力を注いだ。
オーナー様から全幅の信頼を得ていた小池も「前回よりも良い建物をつくりたい」というものづくり魂に燃えていた。
最上階には専門的なテナントが入るため、MRIやCTといった大型医療機器の搬入ルートを考慮した設計が不可欠であったが、過去の建設実績から蓄積されたノウハウを活用することで、医療ビル特有の諸条件をクリアできオーナー様を納得させるプラン作成が実現。さらに外観は好評だった前回の建物のイメージを継承しつつ素材選びを行った。
小池は振り返る。
「駅前のランドマークとなっていた1棟目と並んで駅のホームからも見える新たなランドスケープを目指しましたが、その通りになった。オーナー様に喜んでいただきよかったです」。
念願の新拠点となる2棟目の医療ビルが完成し、その後も活発に事業展開を進めているオーナー様。最近では工藤建設の土地活用の建物に入居するテナント側としてのプロジェクトも始動している。
確かな建物品質を提供したことで信頼が深まり、最高のミッションを果たした建設プロジェクトストーリー。
こうした信頼関係こそが地域密着型の企業、工藤建設の強みであり基盤ともいえる。
川越は言う。
「お客様との絆や現場のフットワークは大手ゼネコンにも負けないと思います。その自負を持って良い仕事を続けいきたいですね」。
携わったプロジェクトで街を活性化し、集う人々を笑顔にする仕事。
建設事業がもたらすその風景を眺められる感動は、この仕事を選んだ者にだけに訪れる。